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東京地方裁判所 昭和35年(ワ)6051号 判決

主文

原告の請求を棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

事実

(申立)

原告は請求の趣旨として

一、被告は別紙目録記載の不動産は原告と協議し、その承諾がなければ処分できないことを確認すること。

二、被告は原告より金二、一四〇万円および内金一、九〇〇万円に対する昭和三一年八月一日から昭和三二年七月二〇日まで日歩三銭の割合、昭和三二年七月二一日から支払済まで年一割五分の割合による金員、内金二四〇万円に対する昭和三一年八月一日から支払済まで年一割五分の割合による金員の支払を受けた時は、昭和三五年一二月一六日静岡地方法務局熱海出張所受付第六六一五号、同第六六一六号、同第六六一七号をもつて別紙目録記載の不動産に対して設定せる日新製糖株式会社に対する債権額金一、五〇〇万円の抵当権および本多智恵子に対して設定せる金二、〇〇〇万円の抵当権並びに前記会社に対して設定せる債権極度額金一、五〇〇万円の根抵当権を抹消した上、原告に対し右不動産の所有権移転登記手続をすること。

三、訴訟費用は被告の負担とする。

との判決を求めた。

被告は主文同旨の判決を求めた。

(請求の原因)

一、別紙目録記載の不動産(以下本件物件という)は、現在被告の所有名義となつているが、元来原告の所有であり、原告が被告に対する債務元本金二、一四〇万円およびその利息の担保として譲渡したもの、すなわち譲渡担保に供したものであつて、その事情はつぎに記載のとおりである。

二、原告は、昭和二九年一二月二八日訴外秋田県信用農業協同組合連合会(以下秋田信連という)より金員を借り受け、本件物件は右債務の譲渡担保としてその所有登記名義を秋田信連に移転していたものであるが、被告はこれを知り債権の肩替りに応ずるべき旨申出たので原告はその好意に信頼し被告より昭和三一年八月三日右債務金一、四二〇万円を支払つて貰つた。しかしながら、被告は原告と右交渉の経過中突然原告に対し、原告が被告に差入れてあつた額面金一五〇万円の約束手形の元利金七〇〇万円を支払うことを約束せよと強要し、若しこれに応じなければ秋田信連に対する右支払の約束を破棄すると強硬に主張するのでやむなく承諾し、結局原告が被告に対し負担する債務額は登記費用金二〇万円(秋田信連より被告名義に登記の費用)を加えて金二、一四〇万円となり、昭和三一年八月一日その弁済期限を昭和三二年七月三一日と定め、そして右金二、一四〇万円の内金一、九〇〇万円に対しては日歩三銭、残金二四〇万円に対しては日歩一〇銭の割合による利息を支払うことを約束し、昭和三一年八月三日これが担保として秋田信連に譲渡担保として所有権を移転してあつた本件物件を中間省略登記の方法により秋田信連より直接被告名義に移転登記した。そして右弁済期間は同年一一月末日、翌三三年五月末日に順次延期せられた。しかし右金二四〇万円に対する日歩一〇銭の利息の約定は利息制限法第一条第一項により年一割五分の範囲内において有効であり、なお原告は昭和三二年八月二日付で「利息は何程でも結構」という旨の念書を被告に交付したから、昭和三二年七月二一日より右金一、九〇〇万円の利息の支払については利息制限法所定の最高率年一割五分を支払うものである。

三、本件物件は、原告が被告に対する債務の担保として被告にその所有権を移転したものであり、かつ弁済期も到来しているのであるから、被告がこれを処分して右債務に充当し得ることはいうまでもない。しかし譲渡担保であるから被告が本件物件を売却し代金を受領した時は、自己の有する債権額を正確に計算してその残金を原告に返還すべきである。

しかるに被告は、右弁済期限である昭和三三年五月三一日を経過する頃よりぽつぽつ悪心を起し本件債権額を金五、一〇〇万円以上なりと称し、殊に別に損害金および貨幣価値の変動の補債をも請求し、しかもその総額を明示しないばかりでなく、本件物件は自己の完全な所有物であると主張し、独断かつ秘密裡に売却運動をしているので、原告はやむをえず昭和三四年九月二二日東京簡易裁判所に債務額協定の調停申立(同庁昭和三四年(ノ)第六二号債務協定調停事件)に及んだが、同三五年七月一二日の期日に至り被告は突然昭和三三年一二月一日に本件物件を代物弁済により取得したと主張し調停を拒否した。しかし原告は右代物弁済契約をなした覚えは毛頭ない。

その上被告は、昭和三五年一二月一六日訴外日新製糖株式会社より金一、五〇〇万円、訴外本田智恵子より金二〇〇万円を借受け、本件物件の上に各抵当権を設定し、更に右訴外会社に対し債権極度額金一、五〇〇万円(債務者は訴外株式会社井筒商会)の根抵当権を設定した。

四、いうまでもなく譲渡担保である以上債権者は担保の目的のみに権利を行使すべきものであつて、他の目的のために行使することはできないのであるから、被告の右の如き抵当権設定行為は不法極まるものである。

原告は、被告の右の如き行為を知つたので昭和三五年一二月三〇日被告が代表取締役である訴外株式会社井筒商会(前身は被告個人経営の商店である)に行き、右会社の取締役で以前右被告の個人商店に十年間勤務していた訴外吉川甲子太郎を交えて被告に談判したところ、被告はその不法を詫びて如何なる詫証文でも入れるから許して呉れ、しかし今夜はもう遅いし風邪で気分も悪いから明日にしてくれというので、その翌日(一二月三一日)行つたところ、右吉川が出てきて、同人は原告に対し被告は風邪で来られないから、私が被告の代理人として原告に会つて詫書を入れろと命令されたといつて、熱海の土地(本件土地のこと)に対し計金五、〇〇〇万円の担保を設定してあるが、今后被告は再担保はしない。また本件物件の処分は今后貴殿との協議の上でなければ一方的に処分しないとの詫証文(甲第五号証)を作成し、これを原告に交付してその確約をした。かりに右吉川に右約定につき被告の代理権限がないとしても、被告は原告に対し右代理権限を与えた旨通告したものであり、またかりに右吉川の行為が代理権限外の行為に当るとしても、原告は吉川に右権限があると信ずべき正当な理由があるから、被告は表見代理の責任を負うべきである。

五、右のように、被告は、詫証文を交付し原告と協議の上でなければ本件物件の処分をしないと固く約束しながら、極秘裡に売却運動をしているので、原告は請求の趣旨第一項の確認判決を求め、なお、被告は本件物件は代物弁済により取得したものであると主張し、譲渡担保であることをも争うのであるが、しかし本件被担保債務の弁済期が経過しても被告において本件物件を債務充当のために換価処分しその債務の精算を終了していない間は、原告において前記債務元本および利息金を提供すれば、譲渡担保である本件物件について被告が任意に設定した前記抵当権および根抵当権を抹消した上その所有名義を原告に移転すべきであるから、したがつて請求の趣旨第二項の判決をも求める。

(被告の答弁)

一、本件物件は元原告の所有であつたところ、被告に対し原告主張のような経緯により被担保債権金二、一四〇万円およびその利息金の支払を担保するために本件物件に譲渡担保が設定せられ、その弁済期限が順次延期されたことは認める。ただし右元本のうち金七〇〇万円の支払については強要した覚えはない。右利息金の利率は争う。また被担保債権の範囲は、後記のように追加拡大された。

二、原告がその主張のように調停の申立をなし被告が昭和三五年七月一二日の調停期日に本件物件の所有権は代物弁済により取得したと主張し、右調停が打切となつたことは認める。その原因は原告自ら本事件の経過をことさらに隠蔽していたところ、調停の進行にともない真実が明白になつたためである。

三、被告が原告主張のように訴外日新製糖、同本多智恵子に対し、本件物件に各抵当権および根抵当権を設定したことは認める。

四、被告は、原告との間に後述のように昭和三三年一二月一日の代物弁済契約に基づき本件物件の完全な所有権を取得したのであるから、最早物件処分につき原告と協議してその承諾を受ける義務はない。しかし原告主張の誓約書が昭和三五年一二月三一日訴外吉川甲子太郎より原告に交付されたことは認めるが、その経過に関する原告の主張は著しく事実を歪曲している。右は被告の関知しないところであつて、被告は原告主張のような特約をなした事実はない。そして被告は右吉川に対し右特約締結について代理権限を付与したこともなく、またその旨を原告に通告したこともない。したがつて被告には原告主張のような表見代理責任を負うベき事由が存在しない。

かりに本件物件について原被告間に譲渡担保関係が存続し、かつ原告主張のような誓約書による特約の効力が被告に及ぼすとしても、右特約は担保権の実行を妨げるもので担保制度の本質に反し法律上無効である。

五、被告は本件物件を代物弁済により取得したから、最早原告はその所有権の移転登記を請求する権限を有しない。その事情はつぎのとおりである。

(一)  本件債務の弁済期限は当初昭和三二年七月三一日と定めたが、原告は右期日に弁済することができず右期限を同年一一月末日まで延期方を懇請してきたので、被告はその要請を入れこれを承諾した。その際原告は非常に感謝し、右期限までに返済しない場合は被告において本件物件を任意売却して債務の弁済に充当されてもなんら異議のないことを書面(甲第三号証)をもつて誓約した。ところが原告はさらに右期限を昭和三三年五月末日まで延期方を求めてきたので、被告はやむなくこれを承諾したが、右期限に至るも弁済の見込みもないので被告は契約の趣旨に則つて売却の上、債務の弁済に充当すべく手配を進め、その見通しもついた矢先原告は静岡地方裁判所沼津支部に事実を全く歪曲して仮処分申請をなした(同庁昭和三三年(ヨ)第九八号事件)。その結果昭和三三年五月二一日同庁の処分禁止の仮処分決定を見るに至り、売却の交渉は頓挫し、これがため被告は信用を毀損せられ、精神的経済的に多大の損害を被つた。

(二)  よつて被告は直ちに右仮処分決定に対し異議の申立をなし、右仮処分申請は契約の真相を歪曲した不当不法なもので理由のないことが明らかであるから速かに取消されるべき旨を主張した。同庁における証拠調の結果事案の真相が明らかにされ、原告の前記仮処分申請は全く理由のないことが判明するに至ると、原告は突如として示談の申入れをしてきた。その示談案の内容要旨はつぎのとおりである。

(1) 原告は本件物件が被告の所有であることを確認する。

ただし、原告は昭和三三年一二月一九日までに本件物件を被告より買戻すことができるものとし、この場合は同日までに手付金として金一、〇〇〇万円を支払い、同年一二月二四日までに金三、二〇〇万円を支払うものとする。

(2) 昭和三三年一二月二〇日以降は被告において本件物件を処分しても原告はなんら異議を述べない。

(3) ただし、希望条件として売却代金より原告が被告より借受金を差引き原告の取得金を金三、〇〇〇万円位になるよう配慮願いたい。

(4)(イ) 原告の先妻の本件物件の土地からの退去および(ロ)原告の山一土建に対する未払金の解決は原告において一カ月以内に責任をもつてこれを行う。ただし被告が原告に代つて解決する場合は(イ)の立退料は約一、〇〇〇万円(ロ)の未払金は約八〇〇万円計金一、八〇〇万円位にて決済し、この金額は原告が被告から支払を受ける右(3)の取得金三、〇〇〇万円より控除されたい。

(5) 原告より被告に対する前記仮処分申請は取下げる

(三)  被告は原告からの前記仮処分により精神的物質的に多大の損害を被つており、かつ原告が未がかつて約束を実行したことのないのに鑑み、今更原告の申入れに応ずる気持はなかつた。しかしながら原告は右は本件の最終解決策であつて必ず履行するから是非とも同意願いたいと懇請するので、紛争を好まない被告は右により本件は最終的に解決できるものと考え、やむなくこれを承諾した。その結果同年一二月三日に前記仮処分の取消がなされた。

(四)しかるに、原告は前記約定による買戻期限である昭和三三年一二月一九月までに本件物件の買戻しをしなかつたため、同日の経過とともに原告は本件物件の買戻しをする権利を喪失し、被告は本件物件の所有権を確定的に取得するに至つた。したがつて同月二〇日以降においては被告は本件物件を任意に売却処分することはできる。ただし右(3)(4)項記載したような金額を原告に交付するように配慮すれば足りるだけである。

(五)  右のように被告は本件物件の所有権を昭和三三年一二月一九日の経過とともに確定的に取得したもので、その所有権取得の効果は原被告間の昭和三三年一二月一日成立した合意に基づいて発生したものであるから、特に改めて被告から原告に所有権取得の意思表示をすることは不要である。かりに百歩を譲り、右の場合所有権を取得する旨の意思表示を必要とするとしても、被告は原告に対し昭和三五年七月一二日東京簡易裁判所における前記調停期日にその旨の意思表示をしたことは原告の自認するところである。かりにそうでないとしても、被告は本訴において昭和三六年一二月二〇日の準備手続期日にその旨の意思表示をしたものである。

六、かりに原告主張のように原被告間に譲渡担保関係が存続しているとしても、原告の本件債務の弁済義務と被告の譲渡担保物件の返還義務とは同時履行の関係にはないから、原告がまづ本件被担保債務を消滅させない限り原告は本件物件の返還を請求することはできない。

七、かりに原被告間に譲渡関係があつて、かつ右の弁済義務と担保物件の返還義務とが同時履行の関係にあるとしても、原告が被告に対し支払うべき被担保債務元本、利息および損害金はつぎのとおりである。

(一)元本金七〇〇万円に対する利率は、昭和三一年八月一日から同三二年九月二〇日までは日歩三銭であつたが、同日これを日歩五銭に改訂し、同年一一月三〇日これを日歩八銭に改訂した。

(二)  元本金一、二〇〇万円に対する利率は、昭和三一年八月一日から同三二年七月二〇日までは日歩三銭であつたが、同日これを日歩四銭に改訂し、同年九月二〇日これを日歩五銭に改訂し、更に同年一一月三〇日これを日歩八銭に改訂した。

(三)  元本金二四〇万円に対する利率は昭和三一年八月一日から日歩一〇銭である。

(四)  原告が秋田信連に関する債務に関連し東海林一雄を債務者とし仮処分申請事件を故弁護士鶴岡正衛に委任した際、被告は、右原告の依頼により昭和三一年四月二八日仮処分保証供託金一〇万円、訴訟費用出張旅費金五万円、手数料金一〇万円計金二五万円を立替えた。昭和三二年一月に至り右立替債権金二五万円を本件物件の被担保債権に加え、その利息を右立替の日から昭和三二年九月二〇日まで利率日歩三銭、同日右利率を日歩金五銭に改訂し、さらに同三二年一一月三〇日これを日歩八銭に改訂した。

(五)  被告は、原告の求めにより昭和三一年四月一三日原告から秋田信連に対する事件処理に関連し金五〇万円を貸渡した。昭和三二年五月三一日に至り右貸付金債権金五〇万円を本件物件の被担保債権に加え、その利息を右貸渡の日から昭和三二年九月二〇日まで利率日歩三銭、同日右利率を日歩五銭に改訂し、さらに同三二年一一月三〇日から日歩八銭に改訂した。

(六)  原告と被告間の昭和三一年八月一日付契約書(甲第一号証の二)において「振出日を昭和三一年八月一日、支払期日を二カ月後とし各二カ月毎に利息を支払つたときは該約束手形を切替え」と約定し、右金二五万については昭和三二年一月に、金五〇万円については同年五月三一日に右契約書と同趣旨の契約をなした。しかし原告は各手形の支払期日毎に利息を支払わず利息および損害金が発生したときは元本に加え重利に付する特約をし、これを履践してきた。その元利支払のために振出した約束手形の額面合計額は昭和三三年五月三一日満期のもの金三、一六五万五一三九円である(乙第一三ないし一七号証の各一、二)

(七)  原告は昭和三三年五月三一日の期日に債務の弁済をしなかつたので、その翌日から完済に至るまで利息相当額の損害金を支払う義務がある。利息制限法第四条は賠償額の予定は同法第一条第一項の規定する率の二倍を超えるものを無効とすると規定している。よつて本件貸借中金二四〇万円およびこれに対する昭和三三年五月三一日までの重利金については約定利息日歩一〇銭中年三割までは有効であり、その余の金員については約定利息日歩八銭はそのまま有効である。そして重利の特約は損害金にも及ぶ約定である。

右の如く原告は被告に対し前記金一、二〇〇万円、金七〇〇万円、金二五万円、金五〇万円については昭和三三年五月三一日までは年一割五分の範囲内における二カ月毎の約定利率による重利、同年六月一日からは日歩八銭の割合による二カ月毎の重利相当の損害金、金二四〇万円については昭和三三年五月三一日まで年一割五分の割合による二カ月毎の重利と同年六月一日から年三割の割合による二カ月毎の重利相当の損害金を支払う義務がある。よつて原告が請求の趣旨第二項記載のような利率でかつ各単利計算による金員の支払と同時に担保物件の返還を求めているのは理由がない。

(被告の主張に対する原告の陳述)

一、昭和三三年五月三一日現在における本件被担保債権元本および利息金の合計が金三、一六五万五一三九円であつたことは認める。

二、本件債務の利息は単利である。被告主張のような重利であり、そして損害賠償額予定の約定があつたことは否認する。被告主張の立替金二五万円および貸金五〇万円の債務があることは認めるが、右債務をいずれも本件物件の被担保債務に加えたことは否認する。

三、被告が本件物件の所有権を昭和三三年一二月一日の訴訟外の和解契約に基づき本件債務の代物弁済として取得したと主張する点は否認する。その理由はつぎのとおりである。

被告は弁済期限である昭和三三年五月三一日経過後は約旨にしたがい本件物件を売却処分し、その売買代金より本件債務の元利金を差引き残額を原告に交付することになるのであるが、被告は弁済期限が経過したこと、登記簿上本件物件の所有名義人であること、本件物件の売却権を取得したことから本件物件は自己の所有になつたと錯覚し、土地は自由に処分できる、原告に交付する金は土地の売却代金と元利金を明確にしない限りどうにでも操作できると考へ、このことは被告の言語態度などから察知することができたので、原告は本件物件の売却方を被告に委かせた場合どんなことになるかと危惧の念を抱いた。そして某弁護士に相談した結果被告主張のような静岡地方裁判所招津支部に仮処分の申請をなし、その決定を得た。これに対し被告は異議を申立て、その異議の訴訟において被告代理人らは本件物件は金二、一四〇万円の貸金債権のための譲渡担保であつて被告はこれを代物弁済として取得する意思は毛頭ない。したがつてこれを売却して債務の弁済に充当し剰余金があればこれを原告に全部返還する旨明言したため、仮処分の理由がないこととなり、そして依頼した某弁護士から仮処分は取消される結果になるだろうといわれた原告は、それでは大変だとあわてて被告本人と直接会つて相談をなし事件の解決を図ろうと考え、被告と直接交渉に及んだのである。被告は本件物件は既に大阪の方に金七、〇〇〇万円位の値段で売れ口があり、取引は同年一二月二五日になつている、代金は金七、〇〇〇万円か金七、二〇〇万円の点だけが決まらないだけだといわれたので、原告は被告に本件物件の処分を待つて貰うこととして原告の方で売らして貰うように交渉した。交渉の焦点は、被告にいくら払えば本件物件の所有名義を原告に移転するかにあつた。その結果、被告の原告に対する本件被担保債務を含む一切の債務元本および利息を基準として定めた金四、二〇〇万円を原告が被告に支払えば本件物件を返還する。その期間は同年一二月二四日まで待つが、同月一九日までに金一、〇〇〇万円以上の手付金を持参しない場合は被告の方で売却の話を進める。そして被告の方で売る場合は売価が今七、〇〇〇万円になるか、金七、二〇〇万円になるか判らないが、原告に金三、〇〇〇万円位交付するとの約旨が基本となつて原被告間に御願書(乙第二号証)に記載した内容の和解が成立したのである。したがつて本件物件を代物弁済として被告に提供するとの約束は全然なかつたものである。右御願書により原告は本件物件の売却権を一時的に取得し、その行使期間被告に本件物件の処分を猶予して貰うことであるから、右和解は原告にとつても弁済期限の延期と同様の効果があつたに過ぎないものである。

(立証)(省略)

物件目録

一、熱海市熱海字来の宮五六七番

宅地   二〇〇坪一〇

二、同所五六八番

宅地   四七坪二二

三、熱海市熱海字野中山二、〇〇二番の二

山林   四反七畝二四歩

四、同所同番の四四

山林   二反六畝二六歩(八〇六坪)

五、同所同番の四五

山林   二反六畝二六歩(八〇六坪)

以上合計三、二九三坪三二

六、熱海市熱海字野中山二、〇〇二番の四三

鉱泉地  一坪〇〇

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